縁結び 恋愛成就 京都地主神社だより平成３０年４月号

　子供の頃から「こんなもの」と思って見てきたので、それが異常ともおかしいとも考えたこともない、というものがあります。

　東山区の東大路の歩道は傾いています。道路は南北を走る四車線で、両端は縁石の設けられた歩道です。道路の中央を頂点として、両端に向かってゆるやかなカーブが見られます。

　つまり、道路はカマボコ状になっており、車道部分はそれほどではないのですが、歩道部分はかなり傾いています。

　若くて健康な人ならたいした問題はないと思いますが、高齢者や車椅子、ベビーカー、足腰の弱い人にとっては歩きにくくて危険です。

　とくに五条から祇園までは長い坂が続き、歩道の傾斜と相まって、かなり歩きにくい場所になっています。

　どうして道路がこのようなカマボコみたいな形状になっているのかというと、「市電の設備が道路地下に残っているのが原因の一つ」なのだそうです。

　四十年前まで、東大路には市電が走っていました。京都駅から清水道、祇園、知恩院、京都大学を経て北大路車庫に至る路線で、現在、市バス206号が踏襲しています。

　市電の走る道路は電車道(でんしゃみち)と呼ばれていました。電車道とは、大きな通りであることをも示しており、そこにさえ出れば、タクシーも走っているし、商店もたくさんあり、公衆電話も必ずあるから、地理不案内な人もなんとかなるという意味でもありました。

　なので当時は道を尋ねられた際、「そこをまっすぐ行ったら電車道です」という答えで事足りたのでした。

　東大路通りを走る市電の路線は東山線と呼ばれていました。現在も地元住民の多くは東大路通りを東大路通りとは呼ばず、「東山線」と呼んでいます。本来は市電の路線名ですが、「東山線」で、タクシー運転手にも通用します。

　市電の線路の基礎部分にはコンクリートが使われており、東山線ではコンクリート部分が廃線後も除去されずにそのまま埋められてしまったのだそうです。

　これが原因で、道路中央部が盛り上がり、歩道部分がひどく傾斜しているのだということなのですが、廃線後も基礎部分がそのままになってしまった理由については、京都市建設局もよくわからないのだそうです。

　沿線には、三十三間堂、清水寺、八坂神社、知恩院といった国宝や重要文化財、世界遺産が数多くあります。つまり、京都観光に来た人が必ずといっていいほど訪れる場所でもあります。

　ゆえに、このあたりは季節を問わず、朝から晩まで大勢の観光客が往来します。市バスのバス停で並ぶ人の数も尋常ではなく、それでなくても歩きにくい場所なのにさらに人が溢れるような状況になっています。

　国の整備基準で横断勾配が標準2%と定められているのですが、市の調査によると四条から五条の間の大半が基準値を超過し、最大では15%のところもあったと報道されています。

　京都市としても、三条から七条の間について改修工事を検討してはいるのですが、何しろこのあたりは観光客で年中混雑しているところで、「通行止めにするような工事はできない」とのことです。

　歩道の傾きは、解消される日がくるのでしょうか。

　市電が廃線になった際、どうして基礎部分について除去工事をしなかったのか不思議ですね。

　除去しなくても、たいした影響はないだろうという判断だったのでしょうか。あるいは、またいつか市電が復活することがあるかも知れないから基礎部分は残しておこうという上層部の意向があったのでしょうか。

　廃線後四十年の間に、社会の価値観や常識もずいぶん変わりました。大気汚染や環境問題、とくに東北地方を襲った震災の後は、エネルギー政策に対する社会の意識に大きな変化が起こりました。

　市電の廃線が具体化した当時、将来、エネルギーや大気汚染の問題が深刻化した際、路面電車は必ず有効な交通手段として見直されるだろうという意見も少数ながらありました。

　市電の基礎部分を敢えて残したのは、それらを踏まえてのことだったのでしょうか。

　いずれにしろ、四十年も前のことですので、今となっては謎です。