縁結び 恋愛成就 京都地主神社だより 令和２年９月号

　新型コロナ肺炎感染症の影響で、大きなイベントや行事はほとんどが中止、縮小になりました。

　夏の花火大会も各地で中止となりましたが、行事としてではなく、時間、場所の予告なしで単発的に花火をあげるということはあったようです。コロナ禍により、息がつまるような思いをしていた人にとっては嬉しいサプライズとなりました。

　もともと京都市では花火大会のイベントはありません。京都でも花火大会はあると誤解している人がいるようですが、開催地は京都府下であり、京都市内ではありません。

　なぜ、京都市内で花火大会はないのか。それは「御所があるから」です。くわえて、国宝、重要文化財、世界遺産登録の文化財が市街地、住宅地問わずあらゆる場所に存在するからです。

　これらはすべて木造で、一度火災が発生したら全焼の危険性が極めて高く、近隣の類焼も免れません。なので、京都市内で花火大会を開催することは禁じられています。

　今では考えられないことですが、過去には京都市内で花火大会が開催されたことがあったようです。

　昭和二十九年、大文字送り火の夜、鴨川の河原で花火大会が開催されました。

　この一文を読んで、令和の時代に生きる京都市民は驚いたのではないでしょうか。突っ込みどころ満載やないか、と抗議が殺到するような驚異の出来事です。

　当時も、なんでわざわざ大文字の夜に開催したのか、という意見もあったようです。御精霊様を見送る大文字送り火を尻目に花火大会開催とは不謹慎であるとの意見です。

　場所は丸太町から三条の間の鴨川の河原でした。花火は午後七時から九時四十分の間に約３５０発打ち上げられました。そしてその花火の最中、八時十分から送り火の点火が始まります。

　わたしは本当に驚きました。大文字の送り火とは、京都の夏の終わりを告げるメインイベントです。お盆の間、この世に帰っていた御精霊様がまたあの世にもどっていくのを静かに見送る、というのが大文字の夜です。

　それをぶち壊すように傍で花火を何百発も打ち上げるとは考えられません。

　丸太町から三条にかけての鴨川の河原で打ち上げたということは、京都市内のどこから五山を見上げても視野に入ってくるということです。下手をしたら、花火で送り火が見えなくなるかも知れません。

　当時も、なんや、それ、滅茶苦茶邪魔やん！と思う人もあれば、大文字と花火のコラボが見られてめっちゃラッキーやん、と思う人もいたようです。

　その是非はともかく、あの狭い河原で打ち上げ花火なんかやったなあと、まずはそれに驚きました。今の時代なら、絶対に許可が下りないでしょう。

　鴨川周辺には何万人もの観衆が集まり、大変な混雑だったそうです。

　通常、花火大会は海岸や湖岸、広い河川敷等で開催されます。賀茂川も鴨川も、河川敷と呼べるほどのものはなく、車が二、三台通れるかという程度の土手があるくらいです。

　川幅だってたいしたことはなく、すぐ傍に人家があり、当時は京阪電車も鴨川べりを走っていたのです。

　そんなところでよく花火を何百発も打ち上げたことだと、驚きます。

　問題はそれからです。

　その夜、午後十一時頃、御所で火災が発生しました。御所内の小御所の屋根が燃え上がり、宮内庁職員、皇宮警察、市内全域から駆け付けた消防車が消火活動にあたりましたが、小御所は全焼したそうです。

　すぐ傍にある紫宸殿が延焼を免れたのは幸いでしたが、御所で火災が発生したということに、関係者も京都市民も衝撃を受けました。

　原因については、花火大会で使われた落下傘型の花火が小御所の檜皮葺の屋根に飛んできて燃え移ったのだということです。

　花火大会の主催者側は、当時の風向きや火が出た時間から推測すると、花火大会は原因ではないと主張しています。

　しかし、現場付近には落下傘型花火の残骸や破片等が多数落ちており、周辺の目撃証言も寄せられ、御所の火災の原因は花火大会によるものと当局は判断しました。

　京都市消防局のウエブサイトには「昭和２９年８月１６日　上京区京都御所御苑内小御所炎上　鴨川河川敷で、新聞社主催の花火大会が行われ、落下傘型打上げ花火の残火が檜皮葺屋根に落下し出火しました。」という記録が火災現場の写真とともにあげられています。

　現在は京都府鴨川条例により、鴨川では打ち上げ花火はもちろん、ロケット花火、爆竹、クラッカーも禁止されています。また、バーベキューも火器を使用するので禁止されています。

　六十五年ほど前のことですが、今では考えられないような出来事でした。