はるか昔、天上の東方に美しい天女の七人姉妹が住んでいました。
彼女たちの織る布は幾重にも重なる美しい雲のようで、その布からできた衣は“天衣(てんい)”とよばれ、羽織れば天地の間を思うままに行き来できるというものでした。ある日、天女のひとりが言いました。
「この天衣を羽織って地上に行き、水浴びをしましょうよ」
いっぽう地上では、一人の若者が年老いた牛とともに貧しい暮らしをしていました。若者は両親を早くに亡くし兄夫婦と一緒に暮らしていましたが、兄夫婦に毎日のようにいじめられ、とうとうある日「お前にこの老いぼれ牛をやるから、さっさと出て行け!」と家を追い出されてしまったのです。
若者と牛は寄り添いあって細々と暮らしていましたが、ある日突然その年老いた牛が言葉を話しこう言いました。
「今日は天上の美しい天女たちが、地上に降りてきて川で水浴びをするはずです。その間にそっと天衣を盗んでしまえば、天女は天に戻れずあなたの妻になるでしょう」